深く潜る練習

佐藤公彦のblog

「深く潜る練習」というブログ名について

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私は生来、ものを決めることがあまり得意ではありません。
ブログを始める事自体も大分迷っていたのですが、それでもやっぱりやってみようと決めた理由の一つに、好んでよく読んでいたブログの影響があります。

発声練習
>他人と話をしているときに自分の考えをぱっと言葉でも絵でも示すことができなければ、どんなに素晴らしいことを考えていても伝わりません。僕も実際、仕事をしていて他人が自分の考えをうまくぱっと表出できない場面に出くわしていらっとさせられることがよくあります。
私の場合は、自分の考えを文章にして書くことができるようになりたい。できれば、わかりやすい文章で書くことができるようになりたい。また、他人に自分の考えを伝えることに恐れを抱かないようになりたい。と思いブログをはじめました。「自分の考えを文章で外に送り届ける」=「発声」、そのための練習の場なので「発声練習」と命名しました。
発声練習 このブログ名について

「深く潜る練習」という名前も、こちらのブログに大きく影響を受け命名させていただいています。 
筆者の方が引用されている通り、自分の中にある考えを外に出すことは意外に難しく、練習しないとうまくできません。
少しでもうまくものを考え、アウトプットできるようになりたいと思いブログをはじめました。

心の内と外側の世界は、案外簡単には行き来できないんです。殻に閉じこもって、自分の内側にイメージというものをずーっと溜めている、それが普通の人なんです。
原研哉/阿部雅世『なぜデザインなのか。』 ※元文章は書籍のためリンク先は別記事 


ただ、私の場合、
「頭の中身を外に出す」という一連の行為の中でも、特に「自分の中の考え・感情を正確に捉える」という部分が、どうしてなかなか難しいと感じていました。
頭の中身を外に出すときには、
頭の中にあるものを自分が意識できるようになる"認識のフィルター"と
認識したものを他の人にも分かる言葉の形で外に出す"言葉のフィルター”の2つのフィルターが存在するように思います。
認識のフィルターを通るとき、自分の中にあったはずのものの一部しか捉えらないこと、言葉のフィルターを通るとき、捉えたものを正確に描画できないことがしばしばあります。
2つのフィルターを通る過程で、もともと存在していたはずの考え・感情が、気づかぬうちに形を変えてしまうのです。


深く潜るということは、ものの本質を捉えることに熟練し、ものごとの本質奥深くにまで降りていくということです。

認識のフィルターと言葉のフィルターの関係は、絵を描く人の「眼」と「手」の関係にも似ています。
プロの絵描きは頭の中のイメージを紙に落とす「手」の技術もさることながら、ものごとを捉える「眼」の精度の高さが抜群に優れているのだ、という考え方です。

絵が上手い人は、手に技術があるのではない。目が精確に形を捉えていて、手が描く線の狂いを感知できる。つまり、「上手い」というのは、ほとんどの場合、「測定精度の高さ」なのである。たとえば、料理の上手い下手は、最終的にはその人の舌の精度に行き着く。
 ラジコン飛行機の操縦が上手いか下手かは、飛行機の姿勢をいかに精確に捉えられるか、という目で決まる。咄嗟に舵が打てるか、適切な舵が打てるか、といった問題は大したことではない。工作が上手いかどうかも、常に材料を精確に測定できるか、にかかっている。狂いのない飛行機を作れる人は、小さな狂いを見ることができる人である。精確な位置に穴があけられる人は、精確な位置に罫書きができる人だ。
 もう少しわかりやすく説明すると、「どんなとき、どうすれば良いか」といった知識は誰でも簡単に学べるが、一番難しいのは「今がどんなときか」を感知することであって、これは知識としては学べない。現在の位置や状態を的確に把握できれば、もう「上手い」も同然なのである。
上手いとはなにか 森博嗣  ※元の記事が既に削除されているため孫引き

先生が一人一人を回り出したので
私が「もう自分のどこが悪いのかぜんぜんわかりません。この場所がちょっとゆがんでるみたいでずっと直してるんですが、どうでしょう」と言ったら
「ちょっと左に傾いてますね」という。
嘘だ。絶対平行だ。私の目にはそう見える。
なので、定規で測ってやった。
曲がってた。3mm。
すごい。私の目は、その傾きが見えてなかった。
(中略)
描きはじめて10時間ほど経ったところで
真打ちの先生が登場して、全体を見てまた「早すぎる」と言った。
木炭でただ円柱と角柱の形を取り続けて10時間経って、「早すぎる」。
ほええ。
デッサンは完成させようと思ってはいけない、雑になると言われたことを思い出し
そして、そういえばこの人に、一番最初に言われたのが
「描き方を教えるのは簡単だ。でも、大事なのは自分で気づくことだ。教えられることに慣れた人間は、自分だけの力で同じことができなくなっていく。気づく目を持つには、対象物と徹底的に向き合う時間が必要なんだ」
ってことを思い出す。
12時間円柱を描きつづけてはじめてわかったこと。「気づく」までにはたくさんの時間がかかるのに、みんな先に教わってしまうんだね。


眼と手の使い方に熟達していけば、木に埋まっている仁王を造作なく掘り起こす運慶のように、世界に埋まっている意味をなんの躊躇もなく掘り起こせるのではないかと夢想しています。

「よくああ無造作に鑿を使って、思うような眉や鼻ができるものだな」と自分はあんまり感心したから独言のように言った。するとさっきの若い男が、
「なに、あれは眉や鼻を鑿で作るんじゃない。あの通りの眉や鼻が木の中に埋っているのを、鑿と槌の力で掘り出すまでだ。まるで土の中から石を掘り出すようなものだからけっして間違うはずはない」と云った。
夢十夜 第六夜 夏目漱石 

私はこの、ものごとの奥に埋まっている本質を捉える過程を「深く潜る」と形容しました。

自分の内側の世界や外の世界に埋まっている本質を捉え、それを掘り起こすことに熟達したい。そのような思いでつけたのがこのブログ名です。

ちなみに、特に「自分の内面に深く潜る」という点について、これは実際のダイビングに似ているところがあるな、と感じています。
実際のダイビングでは、自分が経験したことのない深さまで潜ったときに「上下の感覚がわからなくなる」ということがあるそうです。パニックになって急いで海面に戻っているつもりが、実は海の底へと沈んでおり、進むべき方向がわからなくなってしまうのです。
自分の内面奥深くに潜っていく作業でも、それまでの自分が経験したことがない深さに達すると上下感覚を失うときがあります。
深く潜って上下感覚がなくなるのは窒素酔いに依るものらしいのですが、窒素酔いの主な症状は
・多幸感(やたらテンションが高くなる)
・方向感覚を失う
・判断力が低下する
らしく、
対処法は
・だんだん慣らしながら潜る
・普段から潜る訓練をする
とのこと。
自分に深く潜ることとなかなか通ずるものがあるなぁと思います。

ブログを書くことを深く潜る練習とし、少しでもものを深く捉えられるようになれればと思います。 

 

 The theme music of this post:Welcome Home by Radical Face

 

参考:
このブログ名について - 発声練習
頭の中にあることを瞬間的に出せる訓練をしないとコンセプトもへったくれもない: DESIGN IT! w/LOVE
12時間円柱を描きつづけてはじめてわかったこと。「気づく」までにはたくさんの時間がかかるのに、みんな先に教わってしまうんだね。 | ■ 暮らしの旅あるき ■
夏目漱石 夢十夜

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